看護師の転職はパソナメディカルTOP » アソシアカフェ(AssociaCafe) » Asssocia Feature 北村聖(きたむら・きよし)教授インタビュー
『21世紀の医療のあり方研究会・北村教授インタビュー』
医師の教育・研修・育成について

パソナメディカル  医療教育の専門家として 医師の教育・研修・育成について、どのように医学生を医療の現場に送り出し、社会的に医療の向上に繋げていくか ご意見をお聞きかせ頂きたいのですが。

北村教授  昨年(2008年)の夏に文科省から医師の入学定員を増やしたいと言う申し入れが大学の方にあり、大学側で検討し、総数で過去の最高レベルになり、その結果1学年総入学定員は8,500人位に増える事になりました。医師不足緊急対策においては、増員についての副作用(マイナス面)も考慮しなくてはいけません。毎年500人ずつ増えますと、当然、増加した医師が働く分 医療費は上がります。
 実は、医者の適正な数というのは分からないんです。最初にお話した様に、開業医が病院で働くようになれば そんなに今だって足りなくはありません。医科大学5つ分に匹敵する増員を十分な準備もなく拙速に作り上げようとするのは、ちょっと危ない様な気がします。言葉が不適切かも知れませんが、「粗製乱造」に走らない様に願っています。粗製乱造で一番被害を被るのは国民ですから。

パソナメディカル  そうですね。医師数を増やしてもその効果には10年位かかるお話ですから、それを考えると、今回の増員計画は根本的な解決になるのでしょうか。

北村教授  仰る通り、入学定員の増やすことの効果は、10年経たないと出てきません。その時に経済状況がどうなっているか分からないので、この施策が役立つとは断定できません。当面すぐに役立つ施策は病院の集約化でしょう。日本は道路の状況は今や悪くはないので、病院は集約してもいいと思います。ただ、集約化は国民の合意でやって行かないと、良い医療をすぐに結び付けるのは無理な注文です。集約化はこれからの一つのキーワードになると思います。
 もう一つの施策は「勤務医の待遇改善」です。まずは勤務時間です。給与よりも勤務時間です。医師の勤務時間の上限を決め、それに見合うだけの勤務医の人数を確保することが大事だと思います。これを具体化するには総数が足りないので開業医の助けが無いと出来ません。例えば 開業医も週1回は近くの病院で当直をやるとか、外来勤務を手伝うとか 何らかの協力体制の確立が急がれます。

医療従事者の教育について

パソナメディカル  派遣会社の役割でもありますが、登録者の教育についてはどのようにお考えでしょうか。

北村教授  これまでは教育に関しては、「派遣の人だから質は問わない」との考えすらあったかと思います。しかしこれからは「この派遣会社からの紹介・派遣だから間違いない」と認められる「質を担保する必要がある」と思います。登録時に試験をする方法もあると思いますが、理想的には、やはり「教育し、派遣する」仕組みを持つ組織になって欲しいと思います。登録者は例えば、週や月に数時間の研修を受けるとか、あるいは実技シュミレーターを置いてある場所で、派遣の空いている時間を利用して自由に練習するとか、契約病院で実習をさせてもらうなど仕掛けを作り教育の分野にも積極的に入って行って欲しいと思います。

パソナメディカル  我々も民間ならではの看護復職支援教育を開発していかなければならないと思っています。

北村教授  是非、派遣会社同士が競争して欲しいと思います。看護協会等他の機関に任せるのではなく、「当社の登録者はこれほどの技能を持っている」とお墨付きを与えられる様な教育を施して競って頂きたいですね。

パソナメディカル  最近ではスタッフの皆さんのキャリアアップ・自己研鑽意欲は強まっております。その面からも人材会社がスタッフ教育について競争をして行くことは社会的にも大変意義のあることだと痛感しております。大きな話になりますが、復職支援については 国家施策として、院内教育・実習と復職支援の教育を一緒にやる「医療教育復職センター・病院」を各県に一つ作って認定機関として頂きたいですね。そこで人材会社、医師会、看護協会、医療関係団体が協力し、医療人材の量の確保、質の担保、適正配置のための再教育・再訓練をやって行く。そうなれば日本の医療現場も少しずつ良くなって行くのではないでしょうか。

北村教授  仰る通りですね。行政と職種団体と国民が一体となって潜在看護師ほか医療従事者の現場復帰支援の教育に取り組めば最高です。もうひとつ、医療に対する国民の気持ちや患者教育を考えてもらわないと上記の取り組みだけでは上手くいかないですね。今、保健・体育が「人間の生物学」になっているので、教科書・教育も「保健・体育・医療」などにした方がいいと思います。

パソナメディカル  本日は貴重なご意見有難うございました。

以下は季刊誌Vol.8掲載のインタビュー内容になります。
医療業界の現状について

パソナメディカル  世界に冠たる日本の医療制度が今行き詰っています。医療従事者の人手不足の問題を抱える日本の医療業界の現状についてどの様にお考えでしょうか。

北村教授  今、仰った様に世界に冠たる制度を支えていたのは何だろうと考えるに、一つは国民皆保険制度、もう一つは、平均寿命が延びたことでしょう。後者については 戦後、衛生状態・水道が良いとか、気候に恵まれている事などもありますが、日本国民の皆が 衛生状態や栄養状態に気を付けてやって来たこと 即ち 社会基盤が最大の要因だと思います。
 健康保険制度はいいんですが、医療現場そのものは決して良い状況にあるとは言えません。これまでの医療の特徴は、働き方のスタイルが「聖職」と言うことで、「医者と学校の先生はお金と無頓着であるべき」という様な社会風土がありました。主治医制とか、医者も患者のためなら寝ずに頑張るというスタイルでやってきました。
 それが日本の医療を支えていた訳です。しかし、現在の悪い状況を醸し出したのは 4年前にマイナス3.16%、医療費が削られた事に主たる原因があると思います。昨今の医師不足は、正確に言うと「勤務医不足」であり、「開業医」は決して少なくありません。また、地域の偏在が問題ですが、これも東京対地方じゃないんですね。地方でも県庁所在地周辺は医師はそれなりに多くいますが、それ以外の市町村や郡部には医師がいないと言うのが現状です。看護師も、ほぼ同じ状態ですよね。若い人ほど都会の生活に憧れるのは職種を問いませんね。

パソナメディカル  国の総医療費の抑制政策として実施された2006年改定の3.16%医療費削減・ショックにより医療現場は悲鳴をあげておりますが、この事に関してどの様にお感じでしょうか。

北村教授  昔から私は「もう日本の社会基盤は整ったので、労働人口をシフトさせるべき」と言っています。国民の労働者の2割〜3割の人が、医療・介護の分野で働き、医療費を今よりもどんどん増やす。その方が国民も税金の使い方として納得できると思っています。

看護師の働き方と教育について

パソナメディカル  分かりました。現在の医療業界の状況の中で、看護師の働き方はどのように変わって行くとお考えでしょうか。

北村教授  看護師の働き方や役割を考えてみると、患者さんの傍にいるのは医師よりもはるかに看護師になりますよね。その意味でもトータルケアするのは看護師と言えます。逆に医者はどんどん患者の傍から離れて、コンピューターの前に居る時間が多くなっています。今後もこの傾向は続くと思います。  医療の主体は看護師になるんではないでしょうか。指示を出すのは医者であっても、本当の医療の実行主体は看護師になる。そこで大切なのは知識と技術と患者を思いやる心ですね。心技体ですよ。心と技術と知識。この3つのバランスを国民は看護師の皆さんに求めていると思います。どれ一つも欠けてはいけないと思います。

パソナメディカル  医師不足に即効性がある対応策として、医師の仕事の一部を看護師に移行して行く事 及びそのための看護師のスキルアップの教育についてはどの様にお考えでしょうか。 

北村教授  移行については当然の流れでしょう。重要なのは技術だけじゃないんですよね。医者が技術だけで医者をやっているのではないんです。知識は絶対ですが、心の部分が最も重要なのです。一方、看護師業務の拡大には、それ相当の事前教育が必要だろうと思います。 認定看護師や専門看護師が高度な医者の業務の一部を分担する方向は良い考えだと思います。彼女たちが活躍し実績を残すことが、保助看法の変更・見直しを促進して行くと思います。私の立場から言うとくどい様ですが、そのためにも教育をしっかりして欲しいということです。
 実は大学では十分な技能教育が出来ているとは言えないのが現状です。看護大学が各県に一つなど、随分増えましたよね。ここ20年で250校を超えたのですが、そこの教員の質が今問題となっています。大学と言うことで博士号を持っている人、研究実績をもっている人を先生として集めた結果、教育実績、技能、臨床経験が十分ではない人が 多く看護大学の教員になっています。付属病院が無い看護大学はどこかの病院に臨床を委託しています。そこでは(OJT)とは言え教育とはかけ離れた単なるお手伝いを実習の代わりにしているケースが見受けられます。臨床実習も含めてしっかりした教育体制・教育人材を整えた上で取り組まなければいけないと思います。これからは看護教育学と言うのか看護教育の仕組みを確立して行くべきではないかと考えます。

求められる経験の広さ

パソナメディカル  分かりました。病院の機能分化と共に看護師の働き方も随分変わってくると思います。これから療養型病院は国の政策のもと、削減される方向です。 その結果職域(職場)が減ることが考えられますが、この点はどのようにお考えでしょうか。

北村教授  看護師の職域が狭まることは絶対無いと思います。介護の指導を含めて、介護を行う人を指導できるのは看護師ですから。これからも職域はむしろ益々広がると思います。機能分化を進めて良いのは急性期だけです。そこでは割と若い人或いはずっと大病院に勤めていたい人(看護師)に担って行ってもらいたいと思います。潜在看護師の中で色々な経験を積んだ方はジェネラルナースとして一般病床あるいは訪問看護等の分野でバリバリ活躍して頂きたいですね。

パソナメディカル  これからは 現場ニーズ、個人の専門性と総合力、これらのミスマッチングが出来るだけ発生しないように、適正な職域を選んで行くということでしょうか。

北村教授  そうですね。これからはやはり幅広い経験を持った看護師が求められるのではないでしょうか。極論ですが 看護師になって整形外科一本ですと言う専門性も大事ですけど、骨折の手当は出来るけども糖尿病の指導ができないというのは一般病床では対応力不足となり求められる看護師像とかけ離れていると言えるのではないでしょうか。本当に狭い所をやる専門看護師や認定看護師は大病院に集約化され、そこで専門的に働いて頂く人ですから、そんなに多くの人数は要らないと思います。

パソナメディカル  例えば診療所で働く看護師は、プライマリ・ケアドクターのように幅広く対応が出来るスキルが必要だということですね。

北村教授  そうですね、国民はそちらを求めていると思います。都会で働く人は狭い分野で特化・専門化した人を育てようとする傾向がありますが、医者の流れから言いますとそれはすぐに行き詰ります。何故なら 専門家の必要数が満たされれば、現場で本当に必要な看護師はジェネラルに幅広く対応出来る看護師だということが直ぐに分かって来ます。

働く人の幸せがえられること

パソナメディカル  医療現場を離れ、臨床外の仕事を求める看護師が増えておりますがこの点、先生のお立場からはどのように感じておられますか。

北村教授  臨床外で働く理由としては労働時間が長い、給与が低いなどが挙げられるでしょう。もし、本気になって処遇や待遇が改善されれば、病院に戻って来ると思います。問題は例えば社会の複雑化に伴って治験の仕事に看護師が求められているのなら、それにあった看護師の働き方・仕事の内容の明確化が必要だという事です。学生時代から、それを踏まえた実習や教育をしっかりして行かなければなりません。学生時代はクリニックでの臨床しかやらず卒業したら、治験とか、産業保健をやるのでは、ギャップが大き過ぎると思いますがどうでしょうか。これらの趨勢に立って看護師教育を見直して行く必要を強く感じております。

パソナメディカル  看護師の仕事の多様化、並び環境の過酷化に伴い、現場離れが顕著になってきつつあります。臨床現場側から見るとこれは由々しき状況であるでしょうか。

北村教授  看護師の立場から考えると臨床以外の職場の方が自己実現し易いのではないでしょうか。と言うのはそこでは自分の判断で動けるからでしょう。看護も介護もチームリーダーを演ずることが役割として求められていますが、産業保健や保健指導では医師の顔色を見ながらでなくて自分の判断で動くこともできるので、むしろ希望者は今後伸びて行くのではないでしょうか。逆に、臨床の現場では 患者さんのケアの大部分は看護師が対応しているにも拘らず、法律では看護師はまだ医師の補助のような位置づけですよね。そこをこれから変えて行く必要があると思います。

パソナメディカル  一方、訪問看護ステーションなどで活躍されている看護師も多くなってきました。 そういう動きの中で派遣の働き方に関してどのようにお考えでしょうか。

北村教授  昨今、派遣のあり方は社会的にも注目を浴びて、労働のあり方を皆が考えるようになりましたね。その中で大事なのは働く人の幸せが得られることです。自分のやりたい仕事を紹介してもらう形が非常に大事だと思います。昨今、話題になったことでもありますが、経営状態が悪いとすぐに辞めてもらえるなど、経営改善のクッション機能を派遣・看護師にあまり求めると、必ずモチベーションが下がりますし、また 質も低下します。そのためにも「安定した雇用の確保」が大事だと思います。